いらっしゃいませ、
ひとりでホテルに泊まることは多かった。まず仕事の場合はたいていビジネスホテルに1人。海外旅行でもけっこう1人で泊まった。そういう行為に違和感はまったくなかったのだが、「日本の旅館に女1人で泊まる」経験はなく、「おひとりさま」時代になっても、けっこう嫌がられることもあり、泊まる側にも躊躇があり、宿選びはかなり慎重になる。

北海道へ1人で行く機会があった。Esquina do Somと鹿糠ちはるさんの札幌ライブがあり、札幌に行ったことがなかったし、夏休みを利用して出かけることにした。札幌は別に問題ない。都市のビジネスホテルにはシングルルームはいっぱいあるし。ただ、札幌だけで過ごすのはせっかく北海道に来たのにもったいないと思い、近場で「北海道らしい」ところを探し、比較的空港と札幌に近い「支笏湖」に目をつけた。
このとき、「いとう温泉」に決めたのは、確か「女性一人お泊りプラン」がその時あったからなのだ。食事を取るダイニングも、なんとなく昔のユースホステルや国民休暇村っぽい。気兼ねもあまり要らなさそう。
千歳に降り立ってから、バスで支笏湖に向かう。曇天。支笏湖についた頃には、かなりな雨。湖の周りには散策スポットがいろいろあるのだけれど、コロコロをひっぱって傘をさしながらでは、いけるところも限られる。だいいち、景色が見えん。バス停付近の町?には飲食店もあるのだが、この天気もあって閑散としている。一人旅というのは微妙なもので、にぎわっているところで1人でいるのも落ち着かないが、人気のないところに1人でいるのもやはり落ち着かない。チェックインの時間には早すぎるけど、宿に電話をかけ迎えに来てもらうことにした。「確か宿には『湖の見えるレストラン』があったはず、宿の中なら1人でも落ち着いて食事ができる。」と踏んでいた。
で、やってない。「軽食ならお部屋にお持ちできますが」と言われてメニューをみると、うどんやカレーなどほんまに軽食。北海道最初の食事がうどんてか?って、かなりがっかりしたけれど、おなかは空いていたし背に腹は変えられない。おひとりさまは、ひとり湖が見える(湖しか見えない)部屋でうどんをすする。でもこれが、なんというか、美味かったんだからしょうがない。
食べ終わったところで、何もすることがないことに気づく。大雨の中露天風呂には入りたくない。何せ、ここのお風呂は、「
活火山恵庭岳の真下の湖岸に自噴している源泉を薄めず、沸かさず、循環せず、その湯船に注いでいる」。循環しないそのお湯は再び湖に流れ落ちる。そんなお湯を、あたかも湖に浸かっているように体感できる。雨の中はさすがにきつい。

本を一冊も持ってこなかったのが不覚。部屋にころんと寝転がる。そのままうとうとする。雨の音しか聞こえない。湖のせせらぐ音はかき消されてしまったのか。溺れるように眠りに着き、そして目を覚ます。1,2時間は眠っていた。そういえば、こんな時間を持つこと自体、ここ数年なかった。網戸越しに外を見ると、雨がほとんど上がっていた。遠い音がいつしか無音となっている。そうか、湖には波は立たない。
カメラを持って湖畔に出る。白人男性のお客さんと挨拶する。そういえば、この旅館のサイトは英語バージョンもある。野趣あふれすぎのお風呂を楽しんだ後、昼食のリベンジのような晩御飯。確かに連れがいればもっと楽しいのだと思うが、ひとりがつまらないわけでもまったくない。おひとりさまは気まぐれなのだ。自分の心にまかせられるのが居心地がよい気がする。
翌日、札幌行きのバスまで時間があるのでこの辺りで短時間で観光したい、ということを宿の人に相談すると、マイクロバスで案内してくださるとのこと。翌日は天気は一転、ピーカンだ。バスに乗り込むと、例の白人男性がいた。学会か国際会議かで仕事で北海道に来たのだが、せっかくだからと前入りして観光を楽しんでいるのだとか。これから洞爺湖に行くらしい。宿の運転手さんは英語が全然わからなかったので、別れ際に「助かりました」と逆にお礼をされてしまう。無料で案内いただいたのにこちらも恐縮。確かにひとりだと、他の旅人と話す機会がぐんと増す。(海外旅行は別だけど。特に日本人の若い女性グループは話しかけても無視されることがしばしば。)

彼らと別れてひとりバスで札幌に向かう。札幌でも、すすきのをひとりぶらついたけれど、小樽でもひとり遊覧船に乗ったけれど、支笏湖での心地よい落ち着きのなさをもう感じることはもうなかった。
支笏湖 いとう温泉
PR